2019.2.15
「地球環境科学と私」第九回は地球史学講座M1 柴原将成さんによる「生きた化石:ウミユリとウミシダ」です.
古生物つまりは、昔の生き物というと、世間一般に、華やかなのはカンブリアモンスター、三葉虫、恐竜、アンモナイトなどです。そのようなロマンあふれる古生物の中で、約5億年前から姿を現し、進化、絶滅を経験し、現在もひっそりと海で生きている古代の生物が存在します。
棘皮動物門(ウニ、ヒトデなどの動物)に分類されるウミユリやウミシダは、そのような古生物を代表します。その名の通り、ウミユリは、海に咲くユリの花のような生物で、茎を持ち、花のような腕を海底で広げ、棲息しています。一方で、ウミシダは茎がなく、陸上に繁茂するシダの如く、海底に生えるように腕を広げ生きています。また、それらの腕の動きは非常にシンプルで、筋肉と靭帯により腕が上下に動く2つの機構のみの組み合わせで、棲息姿勢を決め、移動を行い、また、一部のウミシダでは遊泳します。
そのような生きた化石であるウミユリ、ウミシダにおいて、興味深いことは、ウミユリの衰退とウミシダの繁栄です。両者には進化、生態学的差として棲息環境に大きな差があります。現在、ウミユリは深海域にしか現在では棲息しておらず、浅いところでも、水深約150 mが上限です。一方、ウミシダは、潮間帯と呼ばれる潮の干満差が激しい海の浅いところから、深海まで幅広い棲息域を持ちます。ウミユリとウミシダのにおいて、最初にウミユリが誕生し、その後にウミシダが分岐しました。古生代のウミユリは浅海域と考えられる環境からも化石の産出があり、過去には、ウミユリは浅海域にも棲息していたことが考えられます。つまり前述の通り、ウミユリが衰退した一方でウミシダが繁栄しました。
この事実を説明する説として、古生物学者のMeyerらは、ウミシダの生態調査、化石記録、そして現在のウミユリ、ウミシダの分布から、ウミシダのほうがウミユリよりも運動性が高く、捕食者からの逃避や棲息場所、時間などの選択に有利だあったため、広い環境でも繁栄していると説明しています。
私の研究は、ウミユリ、ウミシダの腕の機能に着目し、ウミユリの衰退とウミシダの繁栄を解明しようとしています。これまでの説では、ウミシダがウミユリよりも腕の運動性が高いという定性的なものでした。そこで、私は、ウミユリやウミシダの筋関節が生じうるモーメントを運動性の指標として、定量的に比較することで、これらの適応進化を考察しています。研究途中ではありますが、海底を這う移動性のウミユリと、同様に移動性のウミシダを比較したところ、ウミユリの方がウミシダよりもモーメントが大きい、つまり、ウミユリのほうが運動性が高くなるという、結果となりました。これまでの説と異なる結果となり、現在考察中です。
長い進化の歴史の中で、運動性はそこまでウミユリやウミシダには必要のないものであったの か?または、別の要因が効いているのか?まだまだ謎が残っていますが、日々の研究を楽しみな がら、生活を送っています。