2020.5.29
「地球環境科学と私」第二十回は地質・地球生物学講座 林誠司さんによる 幼き日のギモン です.
本年度より,教室広報委員長を拝命した地質・地球生物学講座の林誠司です.コロナ禍の折,通常の広報活動がままなりませんが,なんとか工夫をして活動をしていきたいと存じます.慣例に従い(?)ご挨拶を兼ねて,このシリーズエッセイに拙文を寄稿をさせていただきます.
私は幼少時にかなり重篤な小児喘息をわずらい,入退院を繰り返していました.幼稚園の出席日数は1/3程度だったようです.今では当時の記憶はかなりおぼろげですが,最初に覚えた英単語がナースとステーションだったのは鮮明に覚えています.ずっと”ナースステーション”は和製英語だと思っていたのですが,きちんとした英語なのですね.
入院中,具合が悪いときは,ベッドの上で体を起こして本を読むだけで,息苦しくなりましたので,天井のベニヤ板の継ぎ目であみだくじをしてみたり,ベニヤ板に空いている穴を数えてみたりして,時間を潰していました.また,日の光をみたあと目をつぶると,ふしぎな残像が瞼の裏に蠢いて見えますので,その模様を楽しんだりしていました.
そんな環境もあって,私の小さいころの素朴な疑問として,「なぜこの世は真っ暗闇ではなく,いろんな色や形であふれかえっているのだろう」というものがありました.それは入院時に思っていたのか,もう少し年を重ねてからの思索なのかは忘れてしまいました.明るい外の世界への怨嗟からの思いだったのかもしれませんが,ずいぶん小生意気な子供だったと思います(最近宇宙論をもふくめた地学の講義を担当することがあって,ビッグバン宇宙論のスライドをつくりながら,ふと忘れていた記憶が蘇りました).
あの頃は周りも自分自身もまさか成人できるとは思っていませんでしたが,小児喘息とはそういう性質の病気なのでしょう,郊外に引っ越したこともあって,中学にあがるころには驚くほど軽快しており,現在にいたります.病弱だった私を支えてくださった方々には感謝の言葉しかありません.
自然界は多様で複雑です,地球惑星科学教室/地球環境科学専攻の皆さんは,取り組む対象はいろいろ(隕石,地震波,地質体,エアロゾル,生態系…etc.)ですが,共通項としては,「雑多で難解なものをより分けて,それらの関係性や由来,あるいは意味するところを紐解いている」のではないかと思います.幼少時のmonotonousな環境とはまったく対照的な環境に身をおいて,日々刺激的な生活をさせていただいています.
さて,自分語りが長くなってしまいましたが,最後に若い方にメッセージを送ります.ホームページにありますように,本教室は日本で初めてできた”地球科学科”で,伝統的に分野間の交流が盛んです.現代のように科学が深化・精緻化してくると研究にオリジナリティーを出すのは至難の技ですが,他分野の手法や思想を取り入れることによって,思いも寄らない成果があがるのが,総合科学である地球惑星科学/地球環境科学の醍醐味であると思います.ぜひ仲間に加わって,思い切り研究生活をenjoyしてみませんか!
※環境学研究科広報誌 『環KWAN』にも最近寄稿しました.よろしければこちらもご覧ください.