2020.11.17
「地球環境科学と私」第二十三 回は地球化学講座 橋口 未奈子さんによる 隕石有機物研究との出会い です.
5月に地球化学講座助教に着任いたしました橋口です。 隕石を主な研究試料として,初期太陽系物質の化学進化,特に有機物の化学進化について研究を行っています。今回は執筆の機会を頂きましたので,研究を始めるに至ったきっかけについてお話したいと思います。
宇宙の勉強をしたいと考えていたのは中学生頃からで,幼い頃から夜空を眺め,星や月を見るのが好きだったというのがそもそものきっかけでした。当初はビックバンやブラックホールなど,宇宙の誕生や星の形成・消滅に関わるプロセスに関心があったのですが,大学 (神戸大学理学部地球惑星科学科: 現在の惑星科学科) に入り学んでいくうちに,隕石研究の魅力に取り憑かれました。その後,教科書や論文から,隕石に有機物が保存されていること,そして,有機物の同位体組成からどうやら太陽系形成以前から存在していた有機物 (プレソーラー有機物と言います)が生き残っているらしいことに強く興味を持ちました。有機物は揮発性が高く,また,酸素など他の元素と容易に反応して様々に変化・進化する物質なので,46億年以上のタイムスケールの中でどのように生き残ってきたのか,どのような化学進化を遂げたのかが疑問だったのです。
学部3年生のときに,所属を希望していた研究室の先生方が国際鉱物学連合総会のオーガナイザー(世話人)をされていて,自宅や大学から近い距離で開催されていたこともあって,当時何も分からないままその学会に参加し,隕石をはじめとした研究発表を聴講させて頂く機会がありました。また,学部4年時には,学生や若手研究者向けの惑星科学をテーマにしたInternational schoolにも参加したことで,大きな刺激を受け,隕石,特に隕石有機物の研究に対する興味は深まる一方でした (英語という壁はかなり分厚かったのですが…)。そして,同位体をトレーサーとして利用し隕石有機物の化学進化を紐解きたいと考え,北海道大学に進学し,のめり込む様にして修士・博士と研究を続けてきました。
これまで,有機物の同位体に着目した研究,また,隕石には有機物だけでなく様々な鉱物も存在しているので,それら鉱物との関わりを探るべく,空間分布を明らかにするための分子イメージング分析による研究を続けてきました。そして,隕石有機物の化学進化には,鉱物や水との反応が非常に重要であることを理解しました。名大では,金属元素に着目し,有機物と金属元素の関係から,隕石有機物の化学進化過程をさらに深く紐解いていきたいと思っています。
上記の様に、私は”宇宙”や “太陽系”といったテーマに集中してきたので,“地球環境科学”という言葉には、正直なところこれまであまり馴染みがありませんでした。しかし,”環境”という視点から考えた時,隕石有機物の化学進化過程を探るという研究は,46億年前に太陽系が形成した当時の環境,少なくともその有機物を保存している隕石のもとの天体 (母天体と言います)の環境を推測することにもつながると言えます。今後は,”地球環境科学”という私にとっては少し新しい視点にも重きを置いて,名大での研究に取り組む所存です。
最後に,月並みな言い方になってしまいますが,好きだという純粋なきっかけや,何でだろうという疑問からくる関心というのは,大きな原動力になると思っています。それを研究という形でどのように進めて,どのように発展させていくかはもちろん自分次第ではありますが,研究がどうにも上手くいかない時,まさに今の時期のような自分の力ではどうにもできず思う様に動くことができない状況に陥ったときなど,最終的にはその原動力が大きく効いてくると感じることが多々あります。こうした初心を忘れてしまうことなく,名大において,先生方そして学生の皆さんと楽しい研究が出来ればと考えています。