2021.10.6
「地球環境科学と私」第三十一回は生態学講座 野田 はるな さんによる ウミネコの雛の行動観察 です.
こんにちは。突然ですが、皆さんは生き物を長時間観察し続けたことがありますか?例えば、動物園。一匹のテナガザルを1時間も見続けている方は、あまりいないのではないかなと思います。私も動物園に行くことは好きですが、授業以外でテナガザルを1時間も見続けた経験はありません。そんな私は今、ウミネコの雛について研究しており、ひたすら親鳥と雛の行動観察を行なっています。
ウミネコは、チドリ目カモメ科カモメ属に属する海鳥です。青森県八戸市の蕪島では、毎年多くのウミネコが図1のように所狭しと繁殖しています。これだけたくさんの海鳥を見られる場所はあまりないと思うので、コロナが落ち着いたらぜひこの壮観な景色を見に行ってみて下さい。私はこの蕪島を調査地として、ウミネコの雛の酸化ストレスについて研究しています。蕪島では、直接観察を行なったり、行動観察のためのビデオを設置したりしています。また、定期的に体重や羽の長さなどを測定し、酸化ストレスを調べるために採血もさせてもらっています。酸化ストレスとは、体内の活性酸素によって引き起こされる生体にとって有害な作用のことです。過剰な活性酸素は、抗酸化物質によって制御、無毒化されますが、このバランスが崩れた時に、酸化ストレス状態になります。抗酸化物質は、ビタミンAやビタミンC、ポリフェノールなどとして、食べ物から摂取することができるため、スーパーで「抗酸化力」という単語を目にすることもあるかもしれません。
今年も、雛が生まれた5月末から1ヶ月程度、蕪島にて調査を行なってきました。図2のようにタイムラプスカメラを設置しても、ウミネコ達は動じません。すぐに慣れていつも通りの生活をしてくれるのはありがたいのですが、ウミネコがカメラに乗って画角がずれることもしばしば、、、今年はしっかりと重しをつけたりネジをきつく絞めたりと対策を行いました。行動観察では、雛の行動(餌をもらう、翼を広げる、静止する等)と親の行動(巣への出入り、他の親との喧嘩)を観察しています。親の識別が難しく、また画角ギリギリの巣の雛と親は画角外に出かけていってしまうことも多く、生き物を相手にするのは難しいなと改めて実感しています。しかし予想外の行動をするウミネコ達を見ることは楽しく、パソコンに向かいながらつい独り言を言ってしまう日々です。また雛の血液を用いて酸化ストレスの測定も行なっています。雛と親の行動や、雛の体の状態、巣密度などと比較することで、ウミネコの雛における酸化ストレスの要因を調べています。
20巣程のビデオ観察は、途方もないと感じる時は多々ありますが、一羽一羽の成長を楽しみながら、観察を行なっていきたいと考えています。皆さんもぜひ、飼っているペットでも、道端にいるカラスでも、一度ひたすら観察してみてください。新しい発見があるかもしれません。