2024.5.30
「地球環境科学と私」第四十四回は生態学講座 庄子 晶子さんによる 環境学との出会い です.
私が初めて海鳥の生態調査を行った場所は、カナダの太平洋岸沖に浮かぶハイダ・グワイ(クイーン・シャーロット諸島)でした。そこにはハイダインディアンの人々が大昔に作ったトーテムポールが今も残り、苔むしたスプルース(Sitka Spruce)の中で朽ちゆく姿が印象的でした。ハイダインディアンの人々は、トーテムポールを自然に還すことを望んでおり、修復を行わないため、今にも倒れそうなポールがそのままの状態で残っています。
サンドスピット空港に到着すると、小さな船に乗り換え、3ヶ月分の食料、テント、調査道具を積み込み、へカテ海峡を進みました。目的地は調査対象種であるウミスズメの繁殖地で、修士課程1年の春でした。私たちが調査を行ったリーフ島は、かつて人が住んだことのない無人島で、トーテムポールは存在しませんでした。しかし、神話に登場するワタリガラスが高い木の上から私たちを見下ろしており、その光景はまるで神話の世界に足を踏み入れたかのようでした。
この島ではキャンプをしながら生活をしました。湧き水があるほかは、発電機もインターネットもなく、衛星電話がひとつあるだけの小さな島でした。初日はドキドキする気持ちと心細さが混じり、夜になると大きな声で叫ぶトドの群れの声でよく眠れませんでした。 翌朝、湧き水を汲みに海岸線沿いの崖上を歩いていると、すぐ近くで何頭ものザトウクジラが泳いでいるのが見えました。クジラをこれほど近くで見るのは初めてで、その姿が見えなくなるまで目で追い続けました。その時、足元をみると、崖の下の窪みに大量の漂着ゴミが打ち上げられているのを見つけました。プラスチックのポリタンクや浮き、テレビのリモコンやおもちゃなどで、日本語が書かれていたので日本から漂着してきたことがわかりました。
一緒に調査していたハイダ・グワイ出身の青年にそのことを伝えると、ここに漂着するゴミのほとんどは日本からだと言いました。その青年はそのまま海岸を進んでいきましたが、私はこんな美しい島にも大量の人工物が存在すること、そしてその多くが日本から流れてくるという事実にショックを受けました。
私が環境学に関心を持つようになったのは、この漂着ゴミとの出会いがきっかけです。些細なきっかけだと思いますが、本から得た知識ではなく、実際に感じたその時の思いが今でも私の仕事の原動力になっているように思います。この経験が私の人生の転機となり、自然との関わりを深く考えるようになりました。みなさんもこれからさまざまな経験をされることと思います。自分の目で見て、感じて、考えたことを大切にし、希望する道を進んでいってください。応援しています。
リーフ島から眺める海 この時期にはハイイロミズナギドリがよく見られる