トップページ > 新着情報 > 新着情報詳細

新着情報

「地球環境科学と私」第四十九回

2024.11.14

「地球環境科学と私」第四十九回は地球化学講座 日高 洋さんによる 鮒に始まり鮒に終わる です.


鮒に始まり鮒に終わる 地球化学講座 日高 洋

私の主な研究課題の一つは、自然界の中で起こる原子核反応を元素の同位体組成の変動としてとらえることです。例えば、大気に覆われていない惑星物質の表面近傍では宇宙線との相互作用によって核反応が起きているのですが、長期間にわたって宇宙線に曝され続けると、その核反応の蓄積が惑星物質中の元素の安定同位体の変動として確認できることがよくあります。いくつかの元素の変動の度合いを組み合わせることによって、その惑星物質が宇宙線に曝されていた期間の宇宙環境の推定に役立てることができます。隕石やアポロ計画で持ち帰られた月表層物質、近年では探査で持ち帰られた小惑星物質などが研究対象となっています。


私が大学院生の時代から、その後、十数年にわたって興味深く取り組んできた研究対象に「天然原子炉」がありました。中央アフリカ、カメルーンの南に位置する赤道直下の国、ガボン共和国の東部オートオゴーウェ州にオクロという名前のウラン鉱床があります。今から約20億年前に形成した堆積性の大規模な鉱床です(写真1)。このオクロ・ウラン鉱床は、その形成当初から数十万年~数百万年の期間にわたって核分裂連鎖反応を起こした痕跡のある、いわゆる「天然原子炉の化石」であることが知られています。1960年に独立国家となったガボン共和国ですが、長年にわたりフランスとの関係性が強く、オクロ鉱床もフランス資本の現地鉱山会社によって採掘されたものがフランス原子力庁の研究施設に持ち運ばれ、調査していく過程で、その一部に核分裂起源生成物が発見されたのは1972年のことでした。その後の詳細な調査により、オクロ鉱床内にて16か所において原子炉反応を起こした痕跡のある原子炉ゾーンが点在していることがわかり、発見からその後、約30年にわたっていろいろな研究がされてきました。特に、元素の同位体組成は原子炉内での様々な反応を受けて大きく変動していることから、いろいろな元素の同位体組成データをもとにどのような核反応が起こっていたかを読み解くことができます。また、原子炉反応によって作られたいろいろな生成物(いわゆる「核のゴミ」)が20億年たった今でも多かれ少なかれ残存していることから、人工的な原子炉から排出される核のゴミの処分問題を解消するうえでの重要な研究対象になりえると考えられ、放射性廃棄物地層処分に関連した研究も数多くなされてきました。残念ながら、この天然原子炉の化石部分を含むオクロのウラン鉱床は、その維持・管理に莫大な費用を要するとの経済的理由により、2000年に閉山してしまいました(写真2)。その後、天然原子炉に関連する研究もほぼ途絶えてしまいました。


地球環境科学専攻

写真1 オクロ鉱床の概観(1995年筆者撮影)


地球環境科学専攻

写真2 閉山後のオクロ鉱床概観(2015年B. Gall氏撮影。本人の許可を得て転載)


ところが、世界中には根強い「オクロ」ファンがいるもので、まずは2022年6月にフランス・ストラスブール大学における「環境放射能に関する国際会議」の一セッションとして「オクロ天然原子炉発見50周年」シンポジウムが開催されました。さらに、このシンポジウムに引き続き開かれたパネルディスカッションでは、今後、期待できる研究成果など議論されました。私も若いころの思いがよみがえり、議論の内容にすっかり魅了され、意を決し、残された短い研究生活の一部(大部分?)を世界中の根強い「オクロ」ファンとの共同研究に費やそうとしています。


さて、この文章のタイトルですが、私が釣り好きというわけでは決してありません。その昔、ある名誉教授の先生が、80歳を過ぎてなお国際学会で口頭発表されている姿に感銘を受け、その先生に、研究に対するモチベーションについてうかがったことがあります。語ってくださった内容を簡単にまとめると、若いころに手掛けた実験による自前のデータが不十分で、その後ずっと未着手でいたものの、分析技術が高度化し、測定装置の精度が向上した最近になって、若い人に手伝ってもらって追実験を試みたところ、目から鱗が落ちるようにクリアな結論に至りそうなので研究意欲が再燃しているとのことでした。最後に「今の心境を一言で述べると『鮒に始まり鮒に終わる』といったところです。」と付け加えて笑っておられました。私も今、まさに同じような心境を迎えつつあります。





  • 地球環境システム講座
  • 地質・地球生物学講座
  • 地球化学講座
  • 地球惑星物理学講座
  • 地球惑星ダイナミクス講座
  • 地球史学講座
  • 生態学講座
  • 大気水圏講座

学生の皆さんへ

学科のご案内

リンク

名古屋大学 NAGOYA UNIVERSITY

名古屋大学大学院 環境学研究科

名古屋大学理学部

大気水圏科学系

名球会

名大地球ツイッター

名大地球フェイスブック

理学ナビ