2026.10.21
「地球環境科学と私」第六十七回は地球史学講座(名大博物館) 吉田 英一さんによる
地球環境とコンクリーション です.
コンクリーションとは、堆積岩中に産出する球状の岩塊である。成分には、FeやSiのほか、Caを主成分とするものがある。とくにCaを含むものには、殻や骨格を有する化石が含まれる場合があり、カニ・コンクリーションに代表されるように、その保存状態は非常に良好である(カニ・コンクリーション)(図1)。このように良好な保存状態はどのようにして維持されるのか。
図1 約1600万年前の岩ガニコンクリーション(産地:ニュージーランド。瑞浪化石博物館蔵)
コンクリーションは、海性堆積物中で急速に形成されることが分かってきた。そして埋没した後も変形することなく、隆起侵食によって地表に露出し、海岸などで風雨や波浪に晒され周辺地層は風化し削剥されても、コンクリーションはその表面の一部が変色するくらいである。このことは化学的作用のみならず、外部からの力(地圧や衝撃)にも安定であることを示している。
その内部断面を偏光顕微鏡などで観察すると、石英や長石などの砕屑粒子の隙間を、カルサイトやドロマイトといった炭酸塩鉱物がセメンテーションしており、もともと隙間だった部分が緻密にシーリングされていることが分かる。この珪酸塩鉱物と炭酸塩鉱物の組み合わせは、化学的にはアルカリ性にも酸性にも強い組み合わせであり、さらにその緻密なシーリング組織が力学的にも安定した構造体を形作っている。
この究極とも言える急速セメンテーションを再現できないものか。もしこのプロセスを応用することができれば、さまざまな地下構造物や地上インフラの修復、長期保全などに活用できるのではないか。とくにセメント素材の寿命は100年程度とも言われており、軍艦島などに見る構造物が朽ちつつある様子を見ても確かに頷ける。また、地下では地下水の動きを抑制するために、セメントミルクなどを注入し、一旦は止水できるものの、その効果は数年程度であることも確認されている。これらはセメント成分が溶出することによって生じるものである。このような現有シーリング素材の耐久性では、実用化に多くの課題が残されている。例えば放射性廃棄物の地下処分(地層処分)などの非常に長期的な地下環境での隔離を考える場合、地下水の動きをどう長期に渡って抑制すべきか。また地層処分に限らず、二酸化炭素地下貯留(CCS)でのボーリング孔シーリングや石油掘削を行った廃孔シーリングなどでもどのように長期的シーリングを担保すればいいのか。単にセメント系素材の耐久性の観点からだけでなく、地球環境に関わる国際的な課題ともなってきている。そこに、コンクリーションのような長期的シーリング素材が求められる理由がある。
このような背景のもと、コンクリーション化剤(‘Conseed®︎’)を開発し、現在、原子力分野に限らず、さまざまな分野でのシーリングに関する実証試験が進められている。例えば国内では、トンネル湧水亀裂のシーリングや露天掘り鉱山での岩盤掘削法面の長期補強、さらには文化財遺跡の劣化石材の修復・保存があげられる。また海外でも、隣国韓国とは液体水素地下備蓄サイト岩盤の亀裂シーリング、英国とはCCSボーリングシーリングへの応用・共同研究がそれぞれ進められている。
地球上での物質循環は、水がその重要な役割を果たしている。コンクリーションもその物質循環プロセスで形成されるものであり、コンクリーション化剤もそのプロセスに学び、応用化させたものである。つまり、地質現象を模倣したものであり‘Geo-mimicry’だと言える。その効果によって、少しでも私たちが直面している地球環境課題の解決に貢献できれば、多少は環境学研究科の一員としての役割を担えているのではないか、と考える次第である。
図2 コンクリーション化剤(微粒子タイプと液体タイプ)